ー人の問題
仕事は自分一人で完結させられないことが多いため、問題解決のプロセスは多くの場合、実行時に人との折衝が必要となる。『問題解決の思考を学ぶⅢ 解決策の実行 その1』でも述べたが、問題を解決していく中で最も大きな壁として立ちはだかる壁の一つが、「人」である。
原理原則で言えば、地球に存在するあらゆる資源は有限であり、有限の資源を共有し合う人間は他のすべての人と利害関係にある。そして、資源を分け合う機会が日々数えきれないほど存在し、その都度利害関係にある人との交渉が行われる。
この時、お互い感情的にならず交渉をスムーズに進めて資源を分け合うことができたら、どれだけ人生は楽になるだろうか。
前回までは、スムーズな意思疎通を実現するためにわかりやすい「文章」を書くのに役立つ書籍を紹介した。今回は利害関係者との交渉を上手に進めるために、「対話」というツールの考え方として参考になる書籍を紹介したい。
■ハーバード流交渉術 イエスを言わせる方法 ロジャー・フィッシャー/ウィリアム・ユーリー著 金山宣夫 浅井和子訳
原書は1981年に出版されており、日本語版は1989年に出た。改訂を重ねているとはいえ、初版が出てから30年以上経っている本であり、また、文化が異なる日本では本書の考え方が果たして通用するのだろうかと疑問に思う人もいるかもしれない。
本書には様々な交渉シーンの例が挿入されており、厳密に言ってしまうとこれらの事例は普段経験するような馴染みあるシーンとは言えないものも多い。
しかし、日本の生活では経験しないような事例であったとしても、本書で紹介されている交渉時の原理原則はいたってシンプルであり、文化や言語の違いに関係なく現代の日本人同士の交渉においても参考になる考え方であると思う。
それでは例にならって、交渉時における考え方で特に役に立つのではないかと思う3つのポイントを紹介したい。
―人と問題とを分離せよ ―立場でなく利害に焦点を合わせよ ―結果はあくまでも客観的基準によるべきことを強調せよ
1つずつ追っていこう。最初は「人と問題を分離すること」である。
―人と問題とを分離せよ
例えば、相手との考え方や価値観の相違を発見し、ちょっとした会話の流れで相手から自分の価値観を侵害されたと感じる経験をしたことがあると思う。相手と自分の理解の食い違いから誤解が生じ、あるいは自分の意図と全く異なった意味で受け止められ、そして個人的なあてつけで反撃してくるケースを想定しよう。
このような状況に直面すると、長年の友人や一緒に生活している家族など、どんなに仲のいい相手との会話であっても、冷静さを保つことが難しくなる人は多いと思う。
後で振り返ると「なぜあんなに感情的になってしまったのか、なぜあんな言い争いをしなければならなかったのか」その理由がわからない、というケースだ。
この負の感情の原因は、問題と自分自身の価値観を混同し、まるで自分のすべてが否定されているかのように感じることで生じる。
この対策には、相手と対峙する前の段階で「今回話し合う問題は自分や相手個人とは分離された別個の事象である」と頭の中で反芻し、問題が自分や相手とは別個のものであると意識することである。
さらに、会話中も常に頭の中で「人と問題は分離されているか」を確認するのが望ましい。
たとえ相手が冷静を保てない状況に陥ったとしても、頭の中で「人と問題が分離」されているイメージをしっかり意識する。そして議論を続ける前に一呼吸置き、相手が多少なりとも冷静になるのを待ってから会話の軸をあるべきポイントに戻すことで、交渉を理想的なゴールに近づけさせることができるようになる。
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